2ヶ月に1回ブログ記事の更新を目標にしてきたが、少し間があいてしまった。4ヶ月ぶりのデータの追加で、今回も高齢者の認知機能に影響を及ぼす抗コリン薬の話題。
2月に紹介した論文では、どのような薬を抗コリン薬として調査したかは興味あるところだが、それについては詳細を述べなかった。今回は、論文から情報が得られた論文1,3の抗コリン薬を比較するとともに、我が国で販売されている対応薬剤をリストしてみた。
論文1(Ancelin et al. 2006)では被験者の抗コリン薬暴露への評価際して、血清抗コリン活性、投与経路、脳血液関門通過性などの文献情報に基づいて、抗コリン薬をほとんど影響のない薬(1)、僅かに影響する薬(2)、強く影響する薬(3)の3種に分類した。論文中に薬物名が挙げられているのはほとんど(3)の薬で表に我が国で販売の15成分を示した。
論文3(Gray et al. 2015)では、強い抗コリン活性を有する薬物をリストして、その1日量から被験者の抗コリン薬暴露を積算日数で評価している。こちらも我が国で販売の40成分を表に示した。
その後の調査により、抗コリン作用薬としての下表リストは修正が必要と判断しました。修正後の表を参照ください(2015年8月の記事参照)
調査時点やフランスと米国での流通している薬物の違いはあるかもしれないが、両論文に共通するのは9成分と少ない。両論文に対応する我が国で販売の医療用医薬品は42成分。この内2成分はOTC薬成分でもある。また、我が国ではOTC薬としてのみ販売されているものは4成分(カルビノキサミン、メクリジン、ベラドンナアルカロイド、イソプロパミド)あった。
42成分の医療用医薬品について、それらが抗コリン作用を有するとの情報が添付文書からどの程度得られるのかを調べた。その結果、禁忌や慎重投与の欄に、抗コリン作用のために緑内障や、尿路閉塞性などの患者への投与が制限される記述があったものは26成分(表中黄色セルの薬剤)、相互作用の欄に相互に抗コリン作用を増強するなどの記述があって、間接的に抗コリン作用のあることが認識できるものが8成分(青色セルの薬剤)あった。薬剤によりこれらの記述が異なる成分は3成分あった。一方、ピモジド、メチルアトロピン、コルヒチン、フロセミドの4成分(ピンク色セルの薬剤)は添付文書に抗コリン作用に関する記述は全く見当たらない。
該当するOTC薬は代表的な物を示した。添付文書には勿論、抗コリン作用の記述はないが、リストした全ての添付文書の使用上の注意の「相談すること」には排尿困難な症状のある人、緑内障の診断を受けた人が記載されていた。
表に示した医療用医薬品の抗コリン作用に関するこの様な情報の違いは、両論文での抗コリン作用のある薬剤の範囲が各々の判断により決められていること、添付文書への記載の有無、軽重はこれら論文とは別の基準(当然、振れ幅もある)によるためと思われる。フロセミドなどに本当に抗コリン作用があるのかは私自身、疑問だ。高齢者の認知機能に影響を及ぼす抗コリン作用をもつ薬物の範囲については、更に他の情報も含めて調べる必要がありそうだ。
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y16103 (火曜日, 05 7月 2016 18:51)
看護学研究科の学生です。
研究テーマに、高齢者の多剤併用の有害事象(抗コリン作用に焦点)を考えています。
こちらのサイトは大変わかりやすく、勉強になりました。
ありがとうございました。
らとが (土曜日, 15 10月 2016 03:08)
先日、アメリカの某薬科大で講義を承っ際に、フロセミド、ワルファリンに軽度の抗コリン作用があるため、高齢者には控えるべきとの内容でした。この2剤については聞いたことがなかったので検索したところこのサイトに辿り着きました。