アトルバスタチン後発品の選択に思う

知り合いから服薬中の薬3種(ザイロリック、ヘルベッサー、リピトール)をすべて後発医薬品に変更したところ、何とも言えない脱力感を感じて先発品に戻したと相談を受けた。薬局で後発品として出されたのは、アロプリノール錠100mg「アメル」、ジルチアゼム塩酸塩徐放カプセル100mg「日医工」、アトルバスタチン錠5mg「サワイ」とのことで、早速、オレンジブックから各社の製品情報HP、インタビューフォームなどを参照して生物学的同等性試験結果を調べた。

アロプリノールとジルチアゼムの溶出挙動は先発品との類似性が規定範囲にあり、血漿中濃度推移も許容域にある(後発品として販売承認されている以上、当然ではあるが)。問題はアトルバスタチン「サワイ」であった。水を除くpH1.246.83条件で溶出挙動は下図のように先発品と類似しなかったが、血中濃度比較試験で先発品と同等であることが確認されたため、生物学的に同等と判断したと結論されている。

「後発医薬品の生物学的同等性ガイドラインに関するQ&AH18)」によれば、通常製剤では溶出挙動の類似性を証明できなくてもヒトでの同等性が証明されれば生物学的に同等の医薬品と判定されるとある。従って、後発品としての販売・承認条件には合致しているのだが、釈然としない。そこで、後発品20社のアトルバスタチンについて調べてみた。

 パドル法50回転、pH1.2pH35pH6.8,水の4条件での試験製剤(5mg, 10mg錠)と標準製剤の溶出挙動の類似性を表1に示す。注意しなければならないのは5mg錠が赤○の場合で、これは10mg錠について先発品(リピトール錠)と比較して生物学的同等性が証明されれば、その自社製10mg錠を標準製剤にできることである(含量が異なる経口固形製剤の生物学的同等性ガイドライン(H18))。つまり赤○の類似性とは当該会社の5mg錠の溶出挙動を同社の10mgを標準製剤として比較した結果である。だから類似するのは当然で、表1の赤○のある後発品はすべてが4条件とも類似性が確認されている。このような理由で5mg錠では各社間の比較をし難いため、以下10mg錠について比較するが、いずれにしても4条件すべてで類似性が認められるものからすべてで類似性がないものまで、後発品同士の溶出挙動は一様ではない。これは添加物と製剤方法が違うので当然とも言える。

 しかし、標準製剤(リピトール)の溶出挙動が必ずしも一様でないことは意外だった。経時的な数値データが資料に記載されている4社の標準製剤だけをプロットすると図2,3のようになる。パドル回転数、溶出試験液の種類、温度などがガイドラインで規定された同じ製剤の溶出挙動、いわば物理化学的試験結果なので、図3はなるほどという感じだが、図2は予想外に差が大きい。因みに、試験液はpH 1.2pH 6.8には、それぞれ、第十五改正日本薬局方の溶出試験第1液,溶出試験第2液を、その他のpHには薄めたMcIlvaineの緩衝液を用いることになっており、トーワを除いて資料に用いた試験液の記載がある

 次にpH1.2試験液2h後、pH6.8試験液6h後の溶出率を図4,5に示した。青色棒グラフは数値が資料に記載されているもの、ピンク色棒グラフは数値記載が無いのでグラフからの読み取りデータである。緑色棒グラフはpH6.8試験液に局方溶出試験第2液の代わりにクエン酸・NaOH緩衝液(1h後)を用いたとの記載のあるデータである。

 pH1.2では、多くは溶出率6575%の範囲にあるものの、50%以下が2社(明治、サンド)、90%以上が2社(トーワ、TSU)あった。pH6.8では、多くは溶出率6070%の範囲にあるものの、60%未満が2社(明治、トーワ)、70%以上が2社(NP、日医工)あった。

pH6.8での溶出率が何故こんなに低いのかについては、「標準製剤に安定化剤として配合されている沈降炭酸カルシウムがベッセル底部に堆積物となって沈降(マウント)してしまう為、有効成分が溶出できなくなっている・・」との記述が2社(ケミファ、EE)にあった。因みに沈降炭酸カルシウムは先発品のみにしか配合されていない。しかし、上述のようにクエン酸・NaOH緩衝液では溶出速度、溶出率とも高いため、溶出試験第2液の組成(リン酸塩)が関与している可能性も考えられる。

ガイドラインでは標準製剤の平均溶出率が6時間までに85 %に達せず、他の適当な緩衝液では達する場合には、その緩衝液による試験を追加してもよいとされている。だが規定のpH6.8試験液での低溶出率にも関わらずこのような検討をしたのは2社(DSEP、アメル)のみである。ヒトでの同等性が確認されれば溶出挙動の類似性が証明されなくても生物学的に同等と判定するガイドラインの規定を盾にして、本来、標準製剤が85%以上溶出する条件下での比較でないと意味がないにも関わらず、意味の無いデータを並べただけの感じがする。

 さて、以上の調査結果を知り合いにどう伝えるか。まずは最初に述べたザイロリック、ヘルベッサー、リピトールの内、前2つを順次、後発品に変えることを提案した。実は既に変更していて問題なく服薬している。問題は、アトルバスタチン錠5mgをどうするかだ。5mg錠なので、まず表1から赤○のある企業の製品を除外した。これらの製品ではヒトでの血中濃度推移のデータもないからである。その上で、pH6.8での溶出を除く条件で先発品と溶出の類似性が高い製品としてJGTYK、杏林、TCKへの変更を提案してみようかと思う。因みにこれらは図4,5のように溶出率は平均的な範囲内にあり、ヒトでの血中濃度推移データにおけるAUCCmaxの平均値はともに標準製剤のそれを上まわっていない。

変更の結果がわかり次第、また報告したい。