薬学部では6年制化により医療シミュレーション教育が盛んに取り入れられた。医学部、看護学部と同様に医療系の教育では知識だけあっても実技能力が伴わなければ意味がないので当然と言えば当然である。こうしたシミュレーション教育は実技能力の向上や知識の定着に役立っていると思われるが、ここに気になる論文がある。
JR Curtis et al. Effect of Communication Skills Training for Residents and Nurse Practitioners on Quality of Communication With Patients With Serious Illness A Randomized Trial. JAMA. 2013; 310: 2271-2281.
研修医、看護師訓練生を無作為に2群にわけ、一方にはシミュレーションベースのコミュニケーションスキルの教育介入(4時間のワークショップ)を(n=232)、もう一方には通常の教育を(n=240)実施した。各群の介入前の患者との接触は6ヶ月、介入後は10ヶ月として、患者の報告によるコミュニケーションの質(QOC)を主要評価項目、患者の報告による終末期医療の質(QEOLC)、鬱症状、患者家族の報告によるQOCとQEOLCを副次評価項目として成果を評価した。1866人の患者と936人の家族の評価を解析した結果、QOCおよびQEOLCでは介入前後で有意な変化は認められず、調整後の変化を対照群と比較した場合も有意差を認めなかった。鬱症状スコアは介入によりむしろ有意に上昇した。
これだけを読むと、それみたことかとOSCE(Objective Structured Clinical Examination)などの手間暇のかかるシミュレーション教育に嫌々動員される批判的な方々が喜びそうな論文のように思えるのだが、そう単純に受け止めるべきではあるまい。著者らが同様のシミュレーション教育介入について標準患者を使って評価すると、bad newsを伝えたり、患者の感情に反応するスキルの獲得には有効であったと別の論文で述べているとの記載がある。つまり、技術の習得にはシミュレーションの教育は有効であっても、それを実地医療の場に如何に移行させられるのかは今後の課題であり、コミュニケーション技能評価の妥当性についても検討が必要ということだろう。
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